対談企画:「地元とデザイン、女性経営者が語る“芯のある商い”のかたち」

登場人物
田之上 真喜子 氏(株式会社やました 代表取締役)
坂 雅子 氏(婦人雑貨ブランド「アクリリック」代表)
進行:石黒 浩也(株式会社やました 顧問/中小企業診断士)

目次

オープニング

本日は、株式会社やましたの田之上真喜子社長と、婦人雑貨ブランド「アクリリック」の坂雅子代表をお迎えして、“芯のある商い”というテーマのもと、お二人のこれまでの歩みと、現在そして未来について語っていただきます。

長年にわたって互いをリスペクトし合いながら、地域とともに成長を続けるお二人の対話から、多くの気づきをいただけることと思います。

出会いのきっかけと最初の印象

進行:まずは、お二人が出会われたきっかけと、当時の印象についてお聞かせください。

田之上さん:出会いは今から3年前になります。当時、娘と一緒によく美術館巡りをしていたのですが、こちらの美術館(国立新美術館)で偶然、アクリリックさんの「ドットエンボス」のバッグを見かけたんです。

手に取った瞬間に「これはご年配の方から働く女性にまでぴったり」と思い、ブランドについて調べて、すぐにご連絡を差し上げました。

坂さん

そのときのお電話、すごく印象に残っています。田之上社長は、とても声がキレイなんですよね。福岡から直接お電話いただいて、青山の展示会にもすぐにいらしてくださって。商品を見る目も確かで、こちらの姿勢をしっかり受け止めてくださる方だと感じました。

田之上さん:展示会に初めてお伺いしたときの印象もすごく鮮明に覚えています。最寄り駅から、アクリリックのバッグを持たれた方が大勢おられましたね。

会場に入った瞬間、世界観がきちんと整っていて、「この人は芯を持ってものづくりをされている」と直感しました。その後、お取引が始まって実際に商品を取り扱ってみても、すぐにお客様の反応があり、「やっぱり良いものは届くんだ」と確信しました。

それぞれのビジネスの原点

進行:続いて、それぞれが今のビジネスを始められた背景や想いについて教えてください。

田之上さん:私はもともと家業を継ぐ予定ではありませんでした。4人兄弟の末っ子で、表立って事業に関わってはいなかったんですが、兄の妻が体調を崩したことがきっかけで、「店をどうするか」という話になったんです。

両親は「子どもたちよりも店が大事」という世代で、私はその姿を見て、「まだ何も努力していない自分がここで動かなくては」と心を決めました。

ちょうどコロナ禍で、業績は急降下。逆にこれはチャンスだと思い、自分が理想とする会社の形を目指して再スタートを切ったんです。

綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、「地域にとって必要とされる存在になること」「お客様が心から喜べる空間をつくること」が、自分の軸になっています。

坂さん:私は若い頃、日本で欲しいものがなくて、よくニューヨークのMoMA美術館に並んでいる商品に心を動かされていました。その当時は、自分が本当に欲しいと思えるものを形にしたくて、よく素材を買ってきて自分でアクセサリーを作ったりしていました。その想いが高じて「アクリリック」というブランドを立ち上げました。

特に大切にしているのは、“どこで売るか”ということ。百貨店に並べるだけでなく、美術館や建築空間など、コンセプトのある場所に置くことを意識しています。

ものを通じて「こういう世界観がある」と感じてもらいたいんです。

女性経営者としてのリアル

進行:女性経営者として長年活動される中での出来事や、印象に残ったエピソードがあればお聞かせください。

田之上さん:そうですね、例えば新しい事業にチャレンジする時に、例えば私ではなくて主人が出ると、相手さまの反応が変わったりする事は感じました。

また、「本来は兄が継ぐはずなのに女性が家業を継いでも大丈夫なのか?」といった周囲の目があったのも事実です。ですが、私は「お客様にとって価値のある場所」「地域にとって意味のある会社」を自分の手で築こうと思いました。

ひとつづつ実績を重ねることで、周りの方々からのご信頼を頂いてきたと思います。

また、女性として家庭とのバランスを取りながら働く中で、「自分一人では頑張れない、だからこそ地域やお客様との“つながり”が大切だ」と実感するようになりました。自分のためだけでは踏ん張れない時も、「喜んでくれる誰かがいる」ということが大きな力になります。

坂さん:私は以前は、建築や設計の世界におりまして、周囲は当然ながら男性社会。その時と比べると、自分で会社を立ち上げてからのストレスとかは一切ないですね。

寧ろ、例えばメーカーとのやりとりでは、女性である私が直感でびしっと「これは好き・これは嫌い」と指摘する事に、先様は半ば期待してくれています。そういった事の積み重ねで、今では「この人のクオリティは間違いない」と理解してもらえるようになりました。

縫製工場も、「坂さんが首を縦に振らない限り商品は完成しない」と認識してくれるようになりました。それは長年、妥協せずに検品を繰り返してきた積み重ねの結果です。

そして、もうひとつ大切にしてきたのが、“自分を信じてくれるお客様との関係性”です。

直近のエピソードですが、百貨店の催し物にご来店された女医のお客様が、ニューヨーク留学中にアクリリックのMoMA展示をご覧になられてたんですね。その方は3日連続でご来店下さり、お話しした際にそのエピソードを語って下さったのがとても嬉しかったんです。

田之上さん:その気持ち、よくわかります。

私も接客を通して、「この人にはこういうものが似合いそう」と想像しながら仕入れていますし、スタッフにも同じような意識を持ってもらえるよう努めています。

女性ならではの視点で、お客様と自然な共感関係が築けるのは強みでもあると思います。

坂さん:女性同士だからこそ、商品の細かいニュアンスも伝わるんですよね。

バッグの重さや素材の硬さ、肩にかけたときの感触など、日常に密接に関わる部分にこだわるのは、私たちだからこそできる仕事だと感じています。

パートナーシップと信頼関係

進行:お二人の間には、長い時間をかけて築かれた信頼関係があるように感じます。これまでの取引の中で印象に残っている出来事や、パートナーとしての考え方について教えてください。

田之上さん:アクリリックさんの商品は、本当に自信を持ってお客様におすすめできるものばかりです。どの商品を仕入れるか考えるときは、実際のお客様の顔が浮かぶんです。「この方にはこれが似合う」「こういうのを探していたかもしれない」って。

坂さん:田之上さんは、商品の検品ひとつとっても非常に丁寧です。

「スタッフには任せません」とご自身でチェックされる。私のものづくりへの姿勢を理解してくださるからこそ、信頼して田之上さんにお願いできるんです。

田之上さん:信頼関係って、実はこういう地道な積み重ねの中で生まれると思うんです。

結果が出なかった時も、「なぜだったのか」を一緒に考えて、次につなげていく。売る側としての責任と、作る側への敬意。その両方があって初めて、本当のパートナーシップが成立すると思います。

未来へのビジョンとメッセージ

進行:さて、これからの展望や目指す未来について、それぞれの言葉でお聞かせください。

田之上さん:やましたとしては、地域に根ざした商いを軸にしながら、次の世代へとバトンをつないでいきたいです。

洋服の事業については「ご来店されたお客様が楽しんで下さる」事をモットーにしていきたいです。itoshimaccoブランドでは、こだわりの素材を使って、地元の生産者さんたちと一緒に「ここでしか作れない」商品を届けています。

これからも、そうした丁寧な取り組みを全国に、そして世界に広げていきたいと思っています。

坂さん:私は、トランクひとつに宝物を詰めて世界を巡るような、自由でクリエイティブな販売スタイルにまた挑戦したいと思っています。

現地に根を下ろし、空気を感じながら、人と人、モノと空間が交差するような場づくりがしたい。商品を通じて、人の背中をそっと押せるような存在でありたいですね。

また、最近はバイヤーとして、よいものを目利きしたり仕入れたりする事にも関心があるので、続けていきたいです。

相手へのメッセージ

進行:最後に、お互いへのメッセージをお願いできますか?

田之上さん→坂さん:坂さんの事は本当に尊敬しているんですね。坂さんは、ご主人が建築家でおられますが、アクリリックは坂さんご自身の強い意志として作りたいもの、というのをとても強く感じます。その想いに私自身、いつも刺激を受けています。

坂さん→田之上さん:自分がやっている事を本当に楽しんでらっしゃいますよね。あと、本当にお仕事が丁寧で誠実な方だと思っています。

次回は是非、糸島のお店にもお伺いして、より深いご協業ができたらいいなと思っております。

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